宮崎研修旅行_02

150222
視察研修最終日、宮崎県木材利用技術センターを訪れました。宮崎士会会長、士会都城支部のメンバーも同席頂き、綾町綾中学校に続き、飯村先生のご案内、ご説明を受けながら貴重な時間を過ごすことができました。
まずこの宮崎県木材利用センターの施設そのものが木構造の実物大の標本のようになっています。この施設の設計には東京大学教授 稲山先生も携わっておられ、昨年のしまね木造塾講習会のレクチャーでも紹介されました。
例えば研究棟の「卍固め接合」。45度に振った柱を中心に、梁材を卍型にずらして噛み合わせ、立体的なトラスを形成しています。耐力壁も無く、力強い木の架構だけで支えられた空間は、伝統的な日本の木組の構造美を思い出させてくれます。また管理棟には緩やかな曲面を持つ、スギ集成材を箱型に加工した大きなスパンの屋根(ボックススラブ)が架かっています。桁行方向貫ラーメン構造により、桁行方向には耐力壁をつくらず道路に対して開放的な立面とし、梁間方向にはスギの柔らかさを利用した斜格子耐力壁が入っています。その他各棟のトラス架構もみどころがたくさんありました。
木質構造のポイントは接合部(仕口、継手)の考え方かもしれませんが、金物をなるべく使わず、断面欠損を少なくというのが共通したテーマのひとつになっているようでした。
また大工さんの木の扱いに「木殺し(木を少しつぶして使う)」というものがあるそうです。乾燥によってやせる木の特質を理解した接合方法は現代の最も新しいテーマになっていました。たまたま実験棟においてあった接合部の原寸サンプルの鋼製部材とスギの梁材の接合プレートにネジが使用されていました。ねじ先端部がドリル形状のタッピンねじで先導孔を必要とせず、木をつぶしながら入っていくのでガタがないそうです。飯村先生は舟くぎと同じ考え方と言われていました。

僕自身にとって、今回の見学と飯村先生の説明を聞いて新しい認識となったのが、大規模の木質構造に柔らかいスギを積極的に使うということでした。これは飯村先生を始めとする研究者の実物大実験の積み重ねによって実証された成果だと思います。強度はあるが柔らかくたわみやすいスギの使い方を考えること。ここ宮崎では実例を通じて着実に実を結んでいるようでした。
もうひとつ、スギの大径材(正確な定義はわかりませんが、末口直径30cm以上)の利用という課題を知ることができました。需要が少ない為に伐採が先送りされてきた人工林のスギ材が占める割合が増加し、市場に流通する大径材も増え始め、いよいよスギが大径材の時代に入りつつあるようです。

「全国一のスギ生産量(140万㎥)を誇る宮崎県は、大径材の割合が増加し、既に市場流通材の約2割(29万㎥)に達している。これらスギ大経材の需要拡大は、今後の本県林業・木材産業発展のカギを握る喫緊の課題であり、全国共通の課題である。(※1)」

こうした杉の大径材の活用には、その木取り(心去り材)、スギの大径材に適した乾燥方法が要となるそうです。飯村先生はこうしたノウハウを公開し、全国で共有していくことが大切だと言われました。

木材の市場の事情は産地ごとに異なると思います。しかし、全国の研究者、生産者、施工者、建築士のネットワークの重要性も強く感じました。みんなでやろうと言われた飯村先生の言葉や、今回の視察研修で温かく迎えていただいた宮崎士会の皆様との交流を通じてそうした可能性を実感することができました。
改めて、しまね木造塾を通じた飯村先生はじめ各地の研究者との出会いや、足立会長をはじめとするこれまでの士会の全国の交流で得られたネットワークに感謝したいと思います。



※1「製材を用いた学校の床工法」開発 実施報告書 宮崎県木材協同組合連合会 平成26年3月 より





スギ集成材を箱型に加工したボックススラブの天井とスギの柔らかさを利用した斜格子耐力壁。





小屋組みは「卍固め接合」による立体トラス。





張弦梁の上弦材には軽量で圧縮に強いスギがむいているそうです。テーパーねじによる接合は軽軟スギによく効き、先導孔が不要な為、初期ガタがない。





クリープの試験でしょうか。





説明して頂く飯村先生。手には読み込んだ「Timber Construction Manual」。