真夜中に目を覚ますと、暖かい部屋のなかだった
窓からは白い雪の世界が見える
すべての音を吸い尽くすような静かな雪の世界
雪に埋もれた針葉樹の森のなか
深い階段を降りていった先に何があったか
幼年時代の思い出にも似た場所だった
深い雪のなかで、地中海の、波のざわめきが耳に残っている
1911年 それは晩夏の地中海だった
青年の魂が触れたものはなんだったか
この世界は不完全さに満ち溢れている
それは造物主たるデミウルゴスの仕事が不完全なものだったからという
でも完全な世界だったら人間もいなかったかもしれない
人間もまた造物主の真似をする
子供が大人の真似をするように
青年は両親から授かった名を捨て カラス(Corbeau) と名のる
遠くに雷鳴を聞いただろうか
光り輝く水面は、また不定形で不透明な世界との境界面でもある
地中海の光のなかで
青年の魂が触れたものはなんだったか