内藤廣 島根県芸術文化センター グラントワ

 ゴールデンウィークはダラダラと仕事の整理をしたり、地元のイベントに参加させていただいたりと、特にどこかへでかけることはありませんでしたが、この土日で島根県益田市までの小旅行をしました。県内といっても島根は東西に長く奥出雲から益田までは半日かかります。
 何故でかけたかと言えば、7日土曜日、島根県芸術文化センター グラントワに設計者である建築家の内藤廣さんが来られるからです。久しぶりに「建築」を感じてみたいと出かけました。当日15時から1時間程 内藤さんに館内を案内していただくという贅沢な機会があり、その後1時間半の講演会がありました。
 10年勤められた東大をこの春に辞され、そしてこの震災直後という内藤さんにとってもいろんな意味で転換点となるときに、直接率直なお話が聞けたことは、そのタイミング含め貴重でした。
 講演で言われたことで印象に残ったことのひとつが益田という場所の特質についてです。島根は東西に長いといいましたが、もともと石見と出雲という二つの国から成ります。出雲は古くから大きな力と文化、歴史を持っていますが、その恵まれた豊かさ故に若干ひねくれているというか、閉鎖的な世界をつくってきました。それに比べると益田は突出した文化はないけど在るべきものがただ在るというか、その確かさと同時に無骨さのようなもの(内藤さんはゴツゴツしたものと言われていました)を持ち合わせている。そんなことをある言葉を引用しながら、この建築をつくりだす内藤さんなりのイメージのとっかかりとして話されました。実はそのとき内藤さんの言う益田の特質が実感としてはよくわからなかったのですが、翌日昼過ぎまで益田に滞在してみて自分なりに納得できました。そしてつくづく内藤さんの建築がこの地にぴったりだなあと感じました。益田の特質をそのまま内藤さんの建築の特質と言いかえることができる気がしました。「突出した文化(デザイン)はないけど在るべきものがただ在る、その確かさと同時に無骨さのようなもの」。

その晩益田の駅ちかくで何気に入ったお店で焼き鳥をつまみに瓶ビールでちょっと一杯。益田は商売っけが無く、目立った繁華街も無いのですが、ふらっと入ったお店がとっても良いです。この焼とりも本当においしかった。そっけないけど質はきちんとしている。益田の良さが少しわかった気がしました。


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島根県芸術文化センター グラントワ 中庭。この中庭が複雑な複合施設をまとめる骨格。
回廊に瓦屋根を廻すと重いデザインになりそうなのに、鉄の十字柱がRCの下屋根を浮遊させ、水平方向に深い奥行きをつくり出しています。
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同上 中庭の水面をみつけると子供たちは大喜び。内藤さんは水面が垂直の軸をこの中庭に持ち込むと言われていました。垂直の軸とは空の光や風がつくる上部に開放された文字通りの垂直軸でもあり、その変化(一日のなかでの変化や四季による変化)を空間が含むという意味で時間軸でもある。
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大ホールを包むコンクリートの量塊。これこそ内藤さんのなかにある「ゴツゴツしたもの」。この幾何学的な巨大な壁面を打ちあげたコンクリートの質、仕上がりは奇跡的。菊竹さん、吉阪さん、コルビュジエまで遡る?「ゴツゴツしたもの」の遺伝子を感じました。
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大ホール内部。中央が内藤さん。
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中庭 床タイル詳細。50角弱くらいのかわいらしい大きさです。瓦(石州瓦(焼成温度が高く寒さに強い。また釉薬にきまち石をつかっていて独特の艶を出す))のような色にしたいと思考錯誤したがタイルは法的な規制が瓦と異なり難しかったとのこと。
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中庭 回廊庇軒先詳細。コンクリート、板金、瓦がぶつかるところ。
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壁、天井、柱型取り合い。コンクリート、タイル、亜鉛メッキ?スチール。見切り方。
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回廊 天井 出隅詳細。
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益田市 医光寺総門。 鳥居のように組まれた太い木組の門型。その無骨さは質実剛健武家の文化か。それはそのまま益田らしさともいえる。
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同上 控え柱 足元詳細。継いであるのはきまち石かな。
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医光寺 雪舟がこの寺に入山し、作庭した山水庭。よくわからないけど、雪舟水墨画を見るとその輪郭の太さ、ごつごつ感が庭の石のそっけなさにも共通しているような気がしました。
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たまたま通りかかった昔の役所だった建物(現 益田市歴史民俗資料館)の屋根。
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益田市 萬福寺 本堂。これまた実直なつくり。
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同上 内部。
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萬福寺 本堂裏の庭。これも雪舟による石庭です。
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同上 雪舟はこの地で87歳の生涯を終えています。
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本堂 廻り縁 死に節の埋め木。
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スケッチ 医光寺総門
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スケッチ 医光寺の雪舟庭園




島根県芸術文化センター グラントワ http://www.grandtoit.jp/
内藤廣建築設計事務所 http://www.naitoaa.co.jp/
山陰の公共建築 http://d.hatena.ne.jp/uda-24/20101002/


















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